sweet milk【完】
ふいに二階から小さな物音がして、
私の肩はぴくりと跳ねた。
顔を向けずに達弥先輩の様子をうかがうと、
先輩はゆっくりと煙草の煙を吐きながら
吸殻を空き缶に押しつけている所だった。
「あの…私もそろそろ、帰ります」
沈黙に耐えきれなくなり
慌てて立ち上がりかけた私の腕を、
突然達弥先輩がつかんだ。
「なんで?まだいなよ」
静まり返っていた鼓動が、再び激しく鳴る。
「え…でも……」
「俺一人じゃつまんねーし。
遅くなったら帰りはちゃんと送るからさ」
予想もしていなかった展開にどぎまぎしながらも
私はやっぱりうれしかった。
また少し、甘いお酒をもらって色々な話をした。
さっき皆がいた時は気にならなかった
達弥先輩の半袖からのびた長くて骨ばった腕や
右耳の下にある小さなほくろが
やけに気になる自分が恥ずかしかった。
ふわふわと宙に浮いた心地のまま、
こっそりとそれを見つめていた。