sweet milk【完】
pain

十四歳のあの日の出来事を

秋雄は知らない。

知られたくはなかったから

私はずっと言わなかった。


つきあい始めてしばらくした頃、

初めて秋雄の部屋でキスをして

抱きしめられ胸を触られた時、

私の体は全力でそれを拒否した。

演技のようにしらじらしいほど体中が震え、

涙と冷や汗が流れた。


「・・・・・・そんなにいやだった?」

責めるようにではなく、

あまりにも尋常でない私の様子を見て

秋雄は呆然とつぶやいた。

私は「違う」と何度も言った。

そして自分に絶望した。


男の人を、好きになる。

そんな事すらもう絶対にありえないと思っていたのに

私は秋雄を好きになり、秋雄も私を好きだと言ってくれた。

その事だけでも私にとっては

充分過ぎるほどの奇跡で、

ひょっとしたらもうこのまま

あの日の出来事は「なかった事」になるかもしれない。

忘れてしまえるかもしれない。

そう、思い始めていたのに。
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