sweet milk【完】
「いれるよ」
秋雄が私のかたちに沈む。
浅く、深く、行き来する。
しがみつく指をつかまれなめとられながら、
私はもう声すら出ない。
溺れる手前で生かされているように、
蘇生のように愛されている。
何一つこわくはない。
無防備な興奮。
秋雄に私のすべてを預けて、
短く高まる呼吸と想い。
確かめるようにゆったりとしていた
秋雄の動きが、ふいに早まる。
「痛くない?」
あれる息の下からもれる声に問われ、
私は増していく痛みよりも、
このまま揺さぶられ続けたい気持ちを
伝えたくて、うなずいた。
『皮膚なんて、骨なんて、いらない。』
しがみつくように秋雄の背中を抱き、
激しく揺さぶられている瞬間、願った。
『液体になって、混ざり合ってこのまま。
このままでいたい。ずっと。』
この先もずっと魚の私は、秋雄と抱き合うそのたびに
そんな想いを卵にして
何億も産み落としていくのだろう。
そう思った。
ありえるはずもない、切なる想いの卵を。