早急に恋に落ちて下さい!
離れにあるおばあちゃんの部屋には、母屋沿いに続く、榑縁(くれえん)を歩いていく。
榑縁に沿って、ガラス戸越に見える中庭には、日本家屋には意外なイングリッシュガーデンが広がる。
学生の頃、園芸部だったかずちやんが作った庭。
今も趣味が庭いじりのかずちやんのセンスはなかなかの物で、古い日本家屋にその庭はしっくりとなじんでいて─
庭のことなんて全く興味の無い私が見ても、素敵と思うほど洒落た庭だ。
庭の隅に金木犀(キンモクセイ)が咲いていて、ちょうど咲き頃で
大きな木にたくさん付いたオレンジ色の小さな花がとても可愛くて、立ち止まって見とれていた。
匂い立つ香りが、ガラス戸越にもわかって────
─私の好きな香り……。
「庭いじりなんてさっさと辞めて、早くわたしの後を、ついでほしいものだわ。」
いつの間にか隣にいたおばあちゃんが誰に言うでもなく、そんな事をつぶやいた。
「…」
仲のあまり良くない二人だから、それが建前なのはしっている。
おばあちゃんが、本気で代を譲りたいのは、母さんにだった。