早急に恋に落ちて下さい!
かずちやんに会うと面倒くさい。
が今の正直な気持ち。
─────‥
ぬか漬けを片手に、母屋の前に立つ。
150年以上の歴史ある母屋は立派な門構えで、見上げるとそびえ立つようなそれに、いつだって圧倒されて
抑えつけるような威圧感がありすぎて───
(凄く、りっぱ…なんだけどね)
……あまり好きじゃない。
「はぁ…」
ため息をつきながら、左端にある小さな勝手口に手をかける。
かけながら、どうかかずちやんに会いませんように─と、願掛けも忘れない。
勝手口は腰をかがまないと入れない引き戸で、開けるのにはコツがあって知らない人には怖ろしく重い。
勝手口なのに、勝手口じゃない感がありありだ。
──中に入ると、広い前庭。
石畳を踏んで、10メートルほどで母屋に入る引き戸がある。
カラリと開けて声をかけた。
「おばあちゃん!ツグミです!」
土間に立ってしばらく待つと、微かな声で「ハ~イ」と聞こえた。
またしばらく待つと、障子を開けておばあちゃんが顔を出した。
「いらっしゃい、ツグミちゃん」
ゆっくりとした話し声にゆっくりとした身のこなし。
普段は可愛いおばあちゃんといった感じだけど
“女主人”と肩書きが付くと、がらりと人が変わったように厳しい女性になる。
でも、孫にはひたすら甘い。