不器用上司のアメとムチ
1.無能な美人

――姫原小梅(ひめはらこうめ)、25歳。
食品会社で副社長の秘書をしている。いや、していた。先週までは。

金曜まであたしは確かに、副社長である霞京介(かすみきょうすけ)――その美麗な容姿から、女子社員たちからは王子と呼ばれている――の秘書兼恋人という、最高のポジションについていた。

それなのに、いつものように京介さんのマンションで週末の夜を共にしようとしていたあたしを待っていたのは、彼からの決別宣言だった。


『ヒメ、今夜からは自分の家へ帰るんだ』

『どうして……?あたしは京介さんと一緒に居たいのに』

『簡単に言うとね、飽きたんだ。きみは誰より美人だけど、どうも頭が弱い。会話もつまらないし、ベッドの上の振る舞いもワンパターン。僕はもう、うんざりなんだよ』


頭を殴られたような衝撃とはきっと、あの時思考が真っ白になったあたしのような状態のことを言うのだろう。

相思相愛だと信じていたのはあたしだけで、彼はいつ別れを切り出すかずっと待っていたのだという。

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