不器用上司のアメとムチ
「ごちそうさまでした!」
ぱん、と両手を合わせると、小出さんが絶妙なタイミングでお冷を差し出してきた。
セルフサービスなのに、いつの間にあたしの分まで持ってきてくれてたんだ。
「ありがとうございます」
佐々木もそうだったけど、小出さんも根は悪い人じゃないみたい……
そう思いながらコップに口をつけたときだった。
「さて……そろそろ教えてもらっちゃおうかな」
不自然ににこにこしながら、小出さんがそんなことを言った。
「教える……って?」
「んもう!王子のことに決まってるじゃない!何でもいいのよ、身長とか体重とか、趣味とか好きな食べ物とか……!」
ああ……あたしに親切にするのは、そういうことだったのね……
若干がっかりしながらも、あたしは京介さんの情報を知ってる限り小出さんに教えてあげた。
彼女はなんと“王子メモ”なる小さなノートを持っていて、あたしの言葉……京介さんの好きな季節は秋だとか、下着は派手なブリーフ派であるということまで、必死でそこに書きつけていた。
「あのう、実はあたしも小出さんに伺いたいことがあるんですけど……」
「なになに?王子のパンツのことまで教えてもらったからね、何でも聞いてちょうだい!」
そう言ってどん、と胸を叩いた小出さん。
…………京介さんが絡むと、彼女は本当に優しい。