不器用上司のアメとムチ
「あたしたちの上司の久我さんのことなんですけど……あの人、結婚してたことがあるんですか?」
あたしはストレートに、一番聞きたかった疑問をぶつけてみる。
ドキドキしながら小出さんの答えを待ったけれど、返事はあっさりとしたものだった。
「ええ?そりゃないわよ。あの人はずっと独身よ」
「じゃあ……あの写真はなんだったんだろう」
「写真?」
「あたし見たんです。久我さんが奥さんと並んで笑ういかにも幸せそうな結婚式の写真!」
小出さんは腕を組み、眉をひそめて真剣になにか考えていた。
やがて何かひらめいたように目を見開き、「思い出した!」と宣言したので、あたしはごくりと唾を飲みこんで、小出さんの言葉を待った。
「それはきっと、久我さんの――――」
「管理課の、ウメさんって方、いらっしゃいますかー!?」
小出さんの声に被さるように響いた、男の人の声。
驚いてその出所を見ると、食堂の内線電話の受話器を押さえながら一人の男性社員がキョロキョロ辺りを見回している。
「あたし、ですよね……」
「そうだね、しかも久我さんからとみた」
こんな場所でもあたしの名前ををちゃんと呼ばないなんて、どんだけ横着なのよ……
あたしは少し苛立ちながら、電話の側まで行って受話器を受け取った。
「……もしもし、管理課のウメですけど」
『――――あ。本当に“ウメ”で来た。久我、お前の言う通りだったよ』
あたしは受話器を落とすかと思った。
だって、この声…………