不器用上司のアメとムチ
電話のあと、小出さんに何の電話だったのか聞かれて、副社長からの呼び出しだと答えると、彼女はへそを曲げた。
「裏切り者ー!久我さんのこと、もう教えてあげないんだから!」
「えぇ、そんな……!」
あたしが情けない声を出しても無視で、プリプリしながら先に食堂を出ていってしまった。
ため息をつきながら二人分の食器を片付け、少し早いけれど副社長室に向かったあたし。
大した用じゃないって言ってたけど……なんだろう。
社長室と副社長室のある階は他と違って、廊下に絨毯が引いてあり足元がふかふかする。
そこを進んで、“副社長室”と書かれたシルバーのプレートの前で立ち止まった。
ここを追い出されてからほんの一週間と少ししか経ってないけど、もう気軽に扉をノックする気にはなれないな……
あたしは少し緊張しながら、扉を二度叩く。
「どうぞ」
中から聞こえたのは女の人の声。
きっと、京介さんの新しい秘書だろう。
チクンと痛んだ胸に構わず、あたしは扉を開けて中に入った。