不器用上司のアメとムチ

「副社長の申し出はとてもありがたいことですが……私はこれからも、管理課の一員として仕事をしたいと思ってます。
だから、もうあなたの秘書には……」


京介さんの目を見ずに、そこまで言ったあたし。

だって、秘書ならさっきの先輩の方がきっと京介さんには相応しい。

それに、あたしは……

たとえ片想いでも、久我さんの近くに居たいから――――。


あたしが自分の膝ばかり見て黙っていると、隣で衣擦れの音がして、それから頬にあたたかくて柔らかいものが触れた。


「今、何を……!?」


思わず振り向いた私の目に飛び込んできたのは、京介さんの熱っぽい瞳。


「……僕がまだ、ヒメを愛していると言っても?」


その目であたしを捕らえたまま彼が囁いたのは、そんな愛の告白だった。


……訳がわからない。

あたしは捨てられたはずじゃなかったの?

愛しているなら、どうしてあんなこと……

< 107 / 249 >

この作品をシェア

pagetop