不器用上司のアメとムチ
「――どんなに好きなものでも、毎日食べれば飽きるだろう?だからってそれそのものを嫌いになったわけじゃない。
少し離れてみて、気づいたんだ。僕はやっぱりヒメのことが好きだって」
「京介さん……」
さっき、この人のキザな言動にはもうときめかないと思った自分が、呆気なくグラグラ揺れ始める。
だって、久しぶりに至近距離で見る京介さんは、思わず見とれてしまうほど綺麗……
「ヒメ……」
京介さんの長い指が、あたしの髪に差し込まれる。
両手で包み込むように頭をつかまれ、キスの予感がその指先の熱から伝わってくる。
このまま、京介さんの元に戻ったら……あたしは今度こそ幸せになれるのかな。
あたしの心をいとも簡単にさらったくせに、肝心なことを忘れていて……付き合えないくせに身勝手な嫉妬だけはする、あの人の側に居るより。
「目を閉じて……」
京介さんに囁かれて、あたしは瞼を閉じた。
……ああ、こんな時なのに腹が立ってきた。
久我さんのばか……
久我さんのばか……
久我さんの……