不器用上司のアメとムチ
「――何を考えているの?」
いつまでも唇が降りてこないと思って目を開けたら、京介さんはあたしを見つめてそんなことを訊いてきた。
「キスのときにキス以外のことを考えられるのは好きじゃない。何を気にして、ここにシワを作ってるの?」
細くて長い指が、あたしの眉間をトントンと軽く叩く。
何って言われても……
別に大したことじゃないし……
「もしかして、僕よりも好きな人ができた、とか?」
くい、と顎を掴まれて瞳を覗かれると、あたしはごまかすことができなくなってしまった。
「……そう、みたいです」
あんなに好きだった京介さんに迫られているのに、頭が考えてしまうのはやっぱりあのオジサンなのだ。
京介さんの気持ちは嬉しいけど、あたし……
「……それは社内の人間?」
「……え?あ、はい」
そんなこと聞いてどうするつもりなんだろう。と、不思議に思いながらも素直に答えてしまうあたし。
すると京介さんが突然低い声になって言う。
「……不愉快だ。辞めさせよう」