不器用上司のアメとムチ
管理の扉を開けると、梅の小さな背中が見えて俺は安堵した。
やっと戻ってきたか……
「あ、久我さん」
こちらを振り返って席を立ち、ぱたぱたと駆けてくる姿はまるで忠犬。
頭を撫でて頬擦りでもしたくなる気持ちをぐっと抑える。
また、“女”になられたら困るからな……
「あたし、何をしたらいいですか?」
「あー、そうだな。とりあえず……この階の女子トイレの掃除、来週の時差表の打ち込み、それが終わったら書類とじを頼む」
え、と言って梅が時計を見る。
もう五時になるのに、残り一時間でそんなにできないって顔だ。
「……何か文句あるか」
「ない……です」
諦めたように長い睫毛を伏せて、梅は管理課を出ていった。
わざと多くの仕事を与えたのは、他の奴らが帰ったあとの方が食事に誘いやすいからだ。
……最近の俺は職権濫用が過ぎるな。でもまぁ、この程度なら許されるだろ。