不器用上司のアメとムチ
「お先に失礼しまーす」
「おお、お疲れ」
六時が過ぎ、残っていた佐々木の姿を見送ると、管理課内には俺と梅だけになった。
梅は時差表を打っている途中で、顔がくっつきそうなくらいパソコンを真剣に覗いている。
椅子から立ち上がった俺は、梅の隣の小出の席にどかっと腰かけると彼女に声をかけた。
「おい」
「はい」
画面から目をそらさず、梅が返事をする。
「それ終わったらメシ行くぞ」
「……は、い?」
「こないだ言った“詫び”がまだだろう。好きなとこ連れてってやるから、早くそれ終わらせろ。書類とじは明日でいい」
梅は目を丸くして何度か瞬きをしたあと、「でも……」と言いにくそうに呟いた。
「……なんだ、予定あんのか?」
俺の問いにしばらく目を泳がせた梅は、やがて聞こえるか聞こえないかの小さな声で言った。
「……京介さんにも誘われてるんです……ディナークルーズ、予約しとくって。そろそろ迎えに――――」
瞬間、管理課のドアが勢い良く開いた。
振り向いた先には、俺の元相棒。
……王子様のお出ましだ。