不器用上司のアメとムチ

「……ほら、これで保存しとけ」


右手が解放されたことにほっと胸を撫で下ろしながら、画面に視線を戻した。


「……これ、嘘ですよね?」


私は画面を指差して久我さんに問いかける。



久我毅 8:50 - 18:45



確かにうちの会社の定時は9時〜18時だけど……

久我さんみたいな課の責任者が、こんなに早く帰れるわけがない。今朝だって、あたしより早くここに来ていたし……


「よくわかったな。梅にしちや見事な推理力だ」

「……馬鹿にしてます?」

「してる」


奇声を発して久我さんに飛びかかりたいのを、なんとか理性で押さえ込んだ。

そして一度深呼吸をしてからあたしは久我さんに業務上の質問を続けた。


「……いいんですか?勝手に適当な時間で打って」

「いいもなにも、上の意向だ。時間外の賃金を払いたくねぇから、役職者だとか俺みたいな責任者はタイムカードを打つなと言われている」

「それって……おかしくないですか?ちゃんと残業して、その分のお金もらえないなんて」

「まぁ、普通に考えればな。だけど今サービス残業なんてどこも当たり前だ」

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