不器用上司のアメとムチ
「――まだ、終わらないの?」
高価そうな革靴で床を鳴らしながら、霞が近づいてくる。
梅は慌てたようにパソコンに向き直り、下手くそな手つきでキーボードを叩く。
「今、終わります……」
霞との約束のために仕事の手を早める梅を見ていると、俺の中に不思議な感情が沸き上がってくる。
つまらない。
気に入らない。
ちりちりと、胸が焦げるように痛くて……
こないだ、佐々木と梅がどうにかなるってことを考えたときも同じことが起きた。
この感情をなんと呼んだっけな……なんて、本当は気づいているのに認めたくない俺がいる。
だって、あまりに勝手すぎるだろう。
忘れられない女がいるのに、他の女にも嫉妬する、だなんて。
「――――終わり、ました」
気がつくと、梅が印刷した来週分の時差表を持って俺の目の前に立っていた。
傍らには、満足そうな笑みを浮かべた霞。
この二人が並ぶと、本当にお似合いだと思わざるを得ない。
だが……
「――まだ、帰っていいと言ってない。書類とじが残ってんだろ」
そんなことじゃ、俺の身勝手な嫉妬は収まってくれそうになかった。