不器用上司のアメとムチ
「あたし……」
梅は俺と霞の顔を交互に見て、それから下を向いて一呼吸置くと、凛とした声で行った。
「久我さんと、行きます……」
「梅……」
「ごめんなさい……京介さん」
ぺこりと頭をさげた梅を見て、霞は残念そうに笑う。
「……そう、仕方ないね。だけど僕はまだ諦めた訳じゃないから。今日のところは引き下がるけど、また誘うから覚悟しておいて?」
そう言って、一人でハイヤーに乗り込んだ霞。断られたのは奴の方なのに、去り際まで綺麗で腹が立つ。
車が行ってしまうと、梅が真正面から見つめてきたので俺は少したじろいだ。
呼び止めたはいいが……
いざ俺を選んでくれたこいつを前に、なんて言ったらいいのかわからない……
「どうして……追いかけてきたんですか」
先に沈黙を破った梅が、当然の疑問を口にする。
だが、どうしてって言われてもな……