不器用上司のアメとムチ
8.牙を剥く狼
「ディナー……」
あたしは、目の前の新鮮なお刺身と青々とした枝豆を眺めて呟く。
「立派なディナーだろうが。ほら、ちゃんと酒もある」
テーブルを挟んで向かい側に座る久我さんが、ビール瓶を傾けてあたしのグラスに注ぐ。
あたしはそれを持って、窓から見える川岸の夜景に視線を移した。
想像してた“ディナークルーズ”とは違うけど……なんだか久我さんらしくてほほえましい気持ちになる。
「そりゃまぁ、あいつの言うようなやつとは種類が違うんだろうが……なかなか風流だろ、屋形船も」
「……そうかも。日本の夏って感じです」
同じ船に乗る20人ほどのお客さんの中には浴衣を着てる人なんかも居る。
いいな……あたしも久我さんと浴衣でデートがしたい……
「――――楽しいか?」
「え……?あ、はい!もちろん」
「そうか。ならいい」
それだけ言って満足そうに笑った久我さんは、自分でビールを注いでは飲み、注いでは飲みを繰り返していた。
そういえば……
この人、酔わせちゃダメなんじゃなかったっけ――――