不器用上司のアメとムチ
「…………なん、で」
はらり、手の中から小さな紙が落ちる。
立っていられなくなったあたしは、まだ下着も着けていない格好のまま、その場に座り込んだ。
見間違いであってほしい……
そう願いながら、落ちた紙にもう一度視線を移したけど……
“金は払っておく。
昨夜のことは、忘れろ”
さっき見たのと同じその冷たい一言が、あたしの胸を尖った刃のように突き刺すばかりだ。
「連れてきたの……そっちじゃん……」
今さら恨み言を呟いても、もう彼はいない。
行き場のない怒りが、涙となってあたしの目から零れる。
「あんなに……あんなに……っ」
あんなに激しく抱いておいて、“忘れろ”って……
「無理だよ……そんなの……っ」
ずずっと鼻を啜ると、あの人の煙草の匂いが思いきりあたしの中に入ってきて、余計に泣けた。
久我さんを信じたあたしがばかだったの……?
だって、あたしは抱き合いたかった。
「好きだ」って言ったら、「知ってる」って嬉しそうに言ってたじゃない。
知ってて、こんな仕打ち、酷いよ…………