不器用上司のアメとムチ
あたしはみじめな気持ちのまま、タクシーで家まで帰った。
そしてすぐにシャワーを浴びて、会社に行く準備をした。
時計を見ると、もう9時になろうとしている。今から行っても、完全に遅刻。
「……重役の秘書になるんだから、重役出勤でもいいんだもん」
そんな勝手な屁理屈を呟きながら、あたしは家を出て会社に向かった。
休んでしまったら、余計に気が滅入りそうだった。
管理課に行く勇気はないけど、他の場所でも幸いあたしを必要としてくれている人がいるから……
「――――おはよう。昨日のディナーはどうだった?」
副社長室の立派な椅子から立ち上がり、あたしに近づいてきたその笑顔は夢で見たのと同じ……
「最悪でした……あたし、もうあの上司の顔を見たくありません。
だから京介さん、あたしのこと……もう一度傍に置いてくれますか?」
「もちろん。よかった、ヒメが戻ってくれて僕も嬉しいよ」
京介さんが、今日もドアの所に立っている秘書の女性に目配せをする。
彼女が一礼をして部屋を出ると同時に、あたしは彼の腕の中だった。