不器用上司のアメとムチ
京介さんのシャツは、甘くてセクシーな香水のにおいがする。
煙草くさい誰かさんとは大違いだ。
「……京介さん、こないだ言ってたこと、本気ですか?」
あたしは、彼の胸に埋めていた顔を上げて問いかけた。
「こないだって?」
「あたしのこと、まだ……」
「――ああ。もちろん本気だよ。秘書になりたいってことは、ヒメも僕と同じ気持ちってことだよね?」
あたしは、少しの間考える。
正直なところ、本気で京介さんを愛しているわけじゃないけど……
本当に好きな人を好きで居続けることに疲れてしまった。
今は誰でもいいから……あたしを愛してくれる人に、傍にいてほしい。
あたしは、京介さんの瞳をまっすぐ見て頷いた。
「ありがとう……ヒメ」
京介さんの顔が近づいてきて、あたしは瞳を閉じた。
久我さんとした、貪り合うようなキスの記憶を早く消してしまいたかった。
それなのに……
唇が触れ合う寸前に京介さんのデスクの電話が鳴り、あたしたちの温度を一気に冷まさせた。