不器用上司のアメとムチ
「――あ、そうだ」
書類や手帳を持って、副社長室を出ようとしたときに京介さんが急にあたしの方を振り返った。
「以前と同じで、人前に出てもヒメは一切喋らないで。愛想よく、僕の隣にいるだけでいい」
「え……でも……」
「ヒメ、食べるの尊敬語は?」
「……食べ、なさる?」
「うん、やっぱり喋らないで」
ニコッと微笑んだ京介さんだけど、なんだか迫力があってあたしは「はい」と言うしかなかった。
それにしても、食べるの尊敬語ってなんだっけ……?
今日の帰り、本屋さんに寄って敬語とかマナーの本を買っていこう……
すでに雲行きが怪しいあたしの秘書業務。
だけど、京介さんの為に頑張りたいという気持ちだけは本物だ。
これからちゃんと勉強して、いつかは立派な秘書になろうとあたしは心に誓った。