不器用上司のアメとムチ
それから数週間。
色々勉強してみてはいるけど、京介さんは「ぼろが出たら困るから」と、あたしにあまりたくさんの仕事をくれない。
簡単な書類作成と、そして相変わらず“飾り”として彼の隣に立つのがあたしの主な仕事。
それでも、ふと副社長室に二人きりになった時なんかに抱き締められると、あたしはこの人に必要とされてるんだって思うことができた。
ただ、それ以上のことはしてこないことが気がかりではあったけど……
不安になりたくないから、目をつぶってた。
「コーヒー開発室……あ、ここだ」
あたしは、京介さんにお使いを頼まれてその部屋の前に立っていた。
間違って副社長室に届けられていた、海外からの荷物――中身はコーヒー豆らしい――を手に持って。
扉を二度ノックをして、「失礼します」と一歩足を踏み入れる。
すると、芳しいコーヒーの香り漂う小さな部屋には柏木さんともう一人知らない男の人がいて、なんだか騒がしかった。
「――石原、お前のバイク貸せ」
「あ、はい!ちょっと待って下さい……鍵、鍵」
「馬鹿、早くしろよ」