不器用上司のアメとムチ
関係のない石原さんに、なんでそんなこと言われなきゃいけないんだろう。
あたしは不快感をあらわにして、彼を睨む。
「なんの根拠があってそんなこと……」
「それは……」
石原さんは何か言おうとして、でも途中で口をつぐんだ。
「……何もないなら、あたしは帰ります」
石原さんに背を向け、荒々しい動作で扉を出ていったあたし。
今度は呼び止められなかった。
半分ほっとして、半分は彼が何を言おうとしていたのかが気になった。
「京介さんは……ちゃんとあたしを愛してくれてるもん……」
そう呟いてみたものの、さっきの柏木さんみたいに京介さんがあたしのことで焦るだろうかと思うと、自信が持てない。
あんな風に、周りが見えなくなるくらい、あたしは愛されてる……?
副社長室に戻るまでの間、あたしはずっと、自分に問いかけていた。