不器用上司のアメとムチ
10.誤解が解けた時
◇久我 猛side◇
今回は、すべてを忘れてしまったわけではなかった。
かなり酔ってはいたものの……俺に組み敷かれながらため息を漏らす梅の姿は、断片的に記憶に残っている。
夢かもしれない、なんて都合のいい考えは、俺の腕を抱き締めるようにして眠る裸の梅と、ベッドの傍らの小さなゴミ箱に放り込まれていた使用済みの避妊具を見てすぐに消え去った。
どうやら、本当にやってしまったらしい。
これで晴れて恋人同士に、となれば丸く収まるのかもしれないが……
俺は梅の腕をそっとほどくと、彼女の顔にかかった髪をどけてその綺麗な寝顔を見つめる。
可愛い、と素直に思う。
……それだけじゃない。俺はあんなに霞に嫉妬して、酔った勢いとはいえこんな場所に連れ込んでるんだ。
きっと、こいつを女として、本当に――――、でも。
「―――ん、う」
梅が小さく声を出しながら、寝返りを打った。
半開きの唇から、無防備に透明な雫が垂れる。
「俺は……お前を抱き締めてやる前に、謝らなくちゃならない人が居る。だが……彼女はきっと俺に会ってくれない……」
眠ってる梅に言っても仕方のないことを、俺はいいわけのように呟いた。
だから俺は、誰とも付き合えないんだ……心の内で、そう続けた。