不器用上司のアメとムチ
煙草を二本吸ってから、勝手なメモを残して、ホテルを後にした。
きっと梅は泣くだろう。でも、それでいい。俺なんかに関わるとろくなことがねぇって、実感できただろ……
一度家に帰り、梅の甘い香りをシャワーで洗い流した。
彼女が今頃あのメモを読んでいるかもしれないと思うと、自分は加害者側のはずなのに胸が痛んだ。
俺ですらそうなんだから、本人はどれだけ痛いんだろうな……
そう思いかけた頭を左右に振って、色々な感情に蓋をした。
クローゼットから適当に出したスーツに着替えてポケットから煙草を取り出そうとすると、そこには目的のものはなくて代わりに二つの飴玉が入っていた。
煙草を止めたときに口さみしくて舐めていただけのそれは、いつしか違う意味を持っていた。
あいつの小っちゃそうな脳みそを、甘いもんで満たしてやりたい。
そして……あいつの笑顔が見たい。
だからと言って、ひとつしか持ってないんじゃ下心がばれてしまいそうだから。
二つあるから、分けてやるだけ。そんなスタンスを崩したくなかった。
「……惚れてんじゃねぇか」
今さらもう遅い自覚を苦笑しながら呟いて、飴をゴミ箱に捨てると家を出た。
自覚したところで、どうしようもない。
ガキじゃねぇんだから、なかったことにすればいい。
梅は美人だ。すぐにほかの男が幸せにしてくれる……