不器用上司のアメとムチ

「――久我さん、梅チャンからなんか連絡ってきたんですか?」


10時を過ぎた管理課で、佐々木がそう言って俺に近づいてきた。


「……来てない。」

「無断欠勤ですかね?梅チャン馬鹿だけど、そんなことする子じゃないと思うんですけど……」


……俺に会いたくなくて、来ない、か。

家で泣いてるのか、あるいは……


「副社長室にかけてみろ」

「え……?」

「そこにいるかもしれない」


佐々木は、「そんな場所にかけるの緊張しますって!」とか文句を言いながらも自分のデスクから電話をかけ、そして……すぐに切られたようだった。


「……久我さん」

「なんだ」

「セクハラが婦女暴行に変わってます……また何かしたんすか」


婦女暴行……その言い方が梅の怒りの度合いを示していると思った。

俺はふっと鼻で笑い、胸の痛みに気付かないふりをして言った。


「たぶん、言ったらお前は俺を軽蔑する」

「え……まさか」

「あいつはもう帰って来ないかもな……」


まだ何か言いたそうな佐々木を見ないようにして、俺は席を立った。

頭が痛いのと胃がむかむかするのは二日酔いのせいなのか……それとも。

どっちにしろ仕事に支障をきたすようじゃ部下に示しがつかねぇ。

一本だけ煙草を吸って、そしたら梅のことはもう……忘れる。

< 148 / 249 >

この作品をシェア

pagetop