不器用上司のアメとムチ
「――久我さん、梅チャンからなんか連絡ってきたんですか?」
10時を過ぎた管理課で、佐々木がそう言って俺に近づいてきた。
「……来てない。」
「無断欠勤ですかね?梅チャン馬鹿だけど、そんなことする子じゃないと思うんですけど……」
……俺に会いたくなくて、来ない、か。
家で泣いてるのか、あるいは……
「副社長室にかけてみろ」
「え……?」
「そこにいるかもしれない」
佐々木は、「そんな場所にかけるの緊張しますって!」とか文句を言いながらも自分のデスクから電話をかけ、そして……すぐに切られたようだった。
「……久我さん」
「なんだ」
「セクハラが婦女暴行に変わってます……また何かしたんすか」
婦女暴行……その言い方が梅の怒りの度合いを示していると思った。
俺はふっと鼻で笑い、胸の痛みに気付かないふりをして言った。
「たぶん、言ったらお前は俺を軽蔑する」
「え……まさか」
「あいつはもう帰って来ないかもな……」
まだ何か言いたそうな佐々木を見ないようにして、俺は席を立った。
頭が痛いのと胃がむかむかするのは二日酔いのせいなのか……それとも。
どっちにしろ仕事に支障をきたすようじゃ部下に示しがつかねぇ。
一本だけ煙草を吸って、そしたら梅のことはもう……忘れる。