不器用上司のアメとムチ

渚と俺と……そして俺の双子の兄、聡(さとし)は昔からの幼なじみだった。


いつも三人でいるのが当たり前だったが、高校に上がる頃、俺は渚から告白されて恋人同士になった。

子どものころからずっと渚が好きだった俺は、嬉しかった。

聡も俺たちを祝福してくれて、なんの障害もなく交際は続いたが……


俺は自分の気持ちを口にするのが苦手で、なかなか“好きだ”と言ってやることができなかった。

それでも渚はちゃんと俺の隣に居てくれたから、言わなくても伝わってると思ってた。


結婚を意識し始めたのは、霞の秘書として順調な日々を送っていた頃だ。

俺も渚も30になる。

そろそろあいつを安心させてやらないとな……

そんな風に思って、クリスマスの日にプロポーズすると決めたのだが……



『私……クリスマスのデートで結婚の話が出なかったら、もう猛とは別れようと思うって、聡に相談してたの。
猛が何も言ってくれないことが不安で、寂しさも限界で……そしたら聡が言ったのよ。“この間猛が指輪を選んでいるところを見た”って……私、嬉しくて……』

「……じゃあ、どうして来なかったんだ。毎年二人で見てたでかいツリーの下で待ってると、俺は確かに言った」

『待ち合わせの時間が迫って、家を出たらそこに聡が居て……
“猛からの伝言で、待ち合わせ場所は公園に変えてくれ”って言われたの。私、疑わなかった……だって、その公園は猛と初めてキスした場所だったから……』


……俺はそんな伝言を頼んだ覚えはない。

つまり、聡が嘘を……


「……そう、だったのか」


俺は深く、ため息を吐いた。


俺はあの日ツリーの下で。


渚は思い出の公園で。


雪のちらつく中、来るはずのない相手をずっと、待ち続けていたんだ……

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