不器用上司のアメとムチ

『猛、あのときどうして携帯に出なかったの……?』

「出なかったんじゃねぇよ。指輪を忘れないようにってことばっか考えてたから家に忘れたんだ」

『……私たち、ばかみたいね?すれ違う必要なんてなかったのに……』

「ああ。本当に……」


渚はその後、泣きながら家に帰ったそうだ。そして聡が……彼女を慰めた。

俺はと言うと、渚が来なかったことがショックで深酒をし、家に帰りついたのは朝になってからだった。

そして二日酔いで痛む頭を押さえる俺の元に聡がやってきて、言ったんだ。


『渚と付き合うことになった』――――と。


ああ、だから渚は昨夜来なかったんだと一応頭では理解した。

だが改めて恋人同士になった二人を見ると、ふつふつと沸き上がる嫉妬に自分が壊れそうになって……


俺はそれを避けるために、渚の家と近い実家を出て二人と距離を置くようになった。

仕事でも霞に見捨てられ、散々な日々だったが……


しばらくして落ち着いていたはずの俺は、あるとき爆発した。


――――渚の妊娠を知った日だ。


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