不器用上司のアメとムチ
“渚が妊娠した。今、三ヶ月だそうだ”
聡からのメールを受け、俺の頭の中は真っ白になった。
自分では消化したつもりでいた渚への気持ちは全く変わっていなかったのだと、その時思い知った。
だから俺は、渚の家を訪ねて……
「猛……来てくれてありがとう。あれ以来ずっと話せてなくて、気になってたの。私たち、色々あったけど、また幼なじみに戻れるよね……?この子のこと、可愛がってくれるよね……?」
まだそれほど膨らんでない腹をさする動作に俺は苛つき、無言で渚をベッドに押し倒した。
「猛……!?」
「俺の子って可能性は……少しもないのか?」
「それは……ないよ。なんでそんなこと聞くの……?私のこと捨てたのは、猛の方じゃない!」
「俺は――――っ」
その時も、俺は渚に“好きだ”と伝えられなかった。
それよりも溢れ出して止まらないのは、醜い嫉妬だった。
「……お前らの大事なもの……穢してやるよ」
「いや!やめて!猛……っ」
無理矢理に渚の足を開かせようとすると、俺の頬に平手打ちが飛んできた。
それは俺の理性を取り戻させるのに充分なほど痛くて……
「渚……悪かっ……」
「最低……最低……っ」
泣きじゃくる渚を置いて、俺は彼女の部屋を後にした。
心の中の……恋愛に関する扉を固く閉ざしたのは、その時からだった。