不器用上司のアメとムチ

結局話は続かなくて、気まずすぎる静寂に包まれる。



「――――小梅」



しばらくすると彼が何故かあたしを名前で呼んだ。

そのせいであの夜のことを思い出してしまったあたしは、自分の体をきゅっと抱き締める。


「気安く……呼ばないで下さい。それとも、勤務中なのに酔ってるんですか……?」

「そこに貼ってあんだろ……ただいま絶賛禁酒中だ」

「じゃあ、なんで……」


また、期待させておいて傷つけるんでしょう?

簡単にやれる女だとでも思ってるの?

飴をあげておけば。

小梅と呼んでやれば。

あっさり落ちる、馬鹿女だって……


「…………っ」


気がついたらあたしは泣いてた。

もうこれ以上ここに居たくない、そう思って振り返り、久我さんの横を無言ですり抜けようとしたけれど……


「――――ちょっと待て」


低い声で唸るように言った彼に強く腕を捕まれ、あたしの自由はきかなくなった。


「離して……!」

「頼む、一言だけ言わせろ……そしたら必ず離すから」

「…………なん、ですか」


きっと真っ赤であろう目で久我さんを睨むと、彼はあたしをまっすぐに見つめて言った。



「あの夜は無責任なことして悪かったと思ってる。だが……お前を抱いたことを後悔はしてない」

< 160 / 249 >

この作品をシェア

pagetop