不器用上司のアメとムチ
結局話は続かなくて、気まずすぎる静寂に包まれる。
「――――小梅」
しばらくすると彼が何故かあたしを名前で呼んだ。
そのせいであの夜のことを思い出してしまったあたしは、自分の体をきゅっと抱き締める。
「気安く……呼ばないで下さい。それとも、勤務中なのに酔ってるんですか……?」
「そこに貼ってあんだろ……ただいま絶賛禁酒中だ」
「じゃあ、なんで……」
また、期待させておいて傷つけるんでしょう?
簡単にやれる女だとでも思ってるの?
飴をあげておけば。
小梅と呼んでやれば。
あっさり落ちる、馬鹿女だって……
「…………っ」
気がついたらあたしは泣いてた。
もうこれ以上ここに居たくない、そう思って振り返り、久我さんの横を無言ですり抜けようとしたけれど……
「――――ちょっと待て」
低い声で唸るように言った彼に強く腕を捕まれ、あたしの自由はきかなくなった。
「離して……!」
「頼む、一言だけ言わせろ……そしたら必ず離すから」
「…………なん、ですか」
きっと真っ赤であろう目で久我さんを睨むと、彼はあたしをまっすぐに見つめて言った。
「あの夜は無責任なことして悪かったと思ってる。だが……お前を抱いたことを後悔はしてない」