不器用上司のアメとムチ

「それは……」


どういう意味?と聞こうとして、やめた。

こうやって強引に迫るのがいつもの久我さんの手だ。

後悔してない=やれてラッキーって意味だ、きっと。

もう騙されるもんですか。


「つまり……」


まだ何か言おうとしてるけど、あたしは久我さんの力が緩んだ瞬間にその腕を振りほどき、彼の元から逃げ出した。



「待てって、小梅!」



だいたい、一言だけって言ったのに「つまり」とか言うのも男らしくない。

あたしが欲しいのはいつも


“好き”


そのたった二文字なのに……




――副社長室に駆け込むなり、あたしはどこかへ出掛ける準備をしていた京介さんの胸に飛び込んだ。


「……どうしたの?」


驚いた声と大きな手が降ってきて、あたしの頭を優しく撫でる。


「京介さん……」

「ん?」

「……キスして」


彼の胸の中で呟くと、頭を撫でていた彼の手が止まった。

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