不器用上司のアメとムチ
しばらく間があって、京介さんの唇が触れたのはあたしのおでこ。
「ごめんね、急いでるんだ」
そう言って爽やかに笑うと、あたしから離れていってしまう。
どうして、唇にしてくれないの……?
おでこにしても唇にしても、かかる時間は変わらないのに。
そんなことを聞くわけにもいかず、あたしは別の質問を投げ掛けた。
「どこに行くんですか?あたし、一緒に行きます……」
「ああ、いいんだ。私用だから。ヒメは気分が悪そうだし、休んでいて」
「…………はい」
なんだか、あたしが一緒に居たら困るような雰囲気だ。
何の用事なんだろ……
京介さんが居なくなってしまうと、あたしは高級な皮のソファにどかっと腰を下ろした。
そして何をするでもなく、ぼおっと窓の方を見つめる。
これじゃ……前のお飾り秘書だった自分と何も変わらない。
管理課のみんなはきっと、忙しく働いてるんだろうな……
そう思っても立ち上がる気にはなれなくて、あたしはしばらく無駄な時間を過ごした。