不器用上司のアメとムチ
久我さんはそう言うと、さっさとテントに背を向け出ていこうとする。
……心細い。
だけど久我さんには久我さんの仕事があると思うと、引き留めることはできない。
少し恨めしい気持ちで背中を見つめていると、久我さんがくるっとこちらを振り返った。
もしかして、あたしを一人にしたらやっぱり可哀想と思ってくれたとか……?
「――――ここ、人気(ひとけ)がないから妙なことすんのに使う社員が居るらしい。運悪く鉢合わせたら、ここでそんなことすんなって言っとけ」
「へ……?」
「じゃーな。ちゃんと数えろよ。困ったときは呼びに来い」
顔の横まで上げた手をひらひらさせて、久我さんは居なくなってしまった。
……ここで、妙なこと。
あたしはぐるりと視線を一周させ、眉をひそめた。
こんな汚い場所でなんて……
あたしなら、絶対にいや。
京介さんの部屋にあるみたいなふかふかのベッドの上が一番……
そこまで考えてから、はっとして自分の頬をぺちぺちと叩いた。
もう、あそこには戻れないんだから……
真剣に段ボールを数えるのが、今のあたしの仕事。それをまっとうしなくては。