不器用上司のアメとムチ

目が覚めたとき……一番にあたしの目に入ったのは、心配そうな佐々木の顔だった。


「梅チャン……大丈夫?」


そう言って、眉尻を下げる佐々木。

来てくれたんだ……あたし、もう管理課の人間じゃないのに……


「ん……たぶん。ここ、病院だよね?」

「そうだよ。マジびびったし……森永さんから連絡もらったとき」

「あ……その森永さんは?」


彼女と話がしたいと思っていた。

どうして、あのとき横断歩道に飛び出したのか……その理由が、聞きたくて。


「森永さんは今……久我さんのとこにいる」


今まで柔らかかった佐々木の表情が、急に強張る。


そうだ――――。久我さん……!!


現実から目を逸らしたくて、きっと記憶のふたが勝手にしまっていたのだろう。

あたしは佐々木に言われて初めて、あたしを助けてくれたあの人のことを思い出した。


「佐々木……!久我さんの病室はどこ!?」

「ちょっと待って。先に先生呼んでくる。梅チャンが目覚めたこと知らせなくちゃ」


そんなの、どうだっていいのに……!!

私の苛ついた表情に気付くと、佐々木は「俺が居なくなったら勝手にベッド抜け出しそうだから、ナースコールにしよ」と言って、ベッドの上からぶらさがるボタンに手を伸ばした。


< 177 / 249 >

この作品をシェア

pagetop