不器用上司のアメとムチ
「梅ちゃん、この方は?」
さくらさんを見るなり、小出さんの情報収集アンテナがにょきっと頭の上から出てきたような気がした。
早く教えなさい!と目が訴えている。
「ええと、こちらは京介さんの新しい――――」
秘書の方です、とあたしが紹介する前に、さくらさんの刺々しい声がかぶせられた。
「あんな馬鹿な男の秘書なんて、やってられないわ!姫原さん、やっぱり彼にはあなたがお似合いだわ。馬鹿同士、通じるものがありそうだもの!」
「ちょっと!アンタその言い方……!!」
そう言いながら、小出さんがさくらさんの前に立ちはだかる。
けれどさくらさんは、ぷいっと顔を背けてそのまま階段を降りていってしまった。
「なによあの子……失礼しちゃう」
「性格悪いのは知ってましたけど……なんか気になること言ってましたね。もう秘書なんかやってられないとか……」
「とにかく、全てを明らかにするために副社長室にGOね!」
うわ、小出さん、さっきより生き生きしてる……
あたしはますます副社長室に行きたくなくなったけど、そんなこと言ったら小出さんにまた叱られるんだろうと思うと、ため息しか出なかった。