不器用上司のアメとムチ
確かに、あたしは馬鹿だし、秘書の能力なんてない。
面接で京介さんに気に入られたというだけで秘書課に配属になり、実質的な秘書業務は秘書課の他の先輩に任せて自分は副社長室で自由な時間(テレビを見る、雑誌を読む、お菓子を食べる……ときどき京介さんと仲良くする)を過ごさせてもらっていた。
こんな社会人生活でいいのだろうかと思わなくもなかったけれど、京介さんに愛されていればそれだけで幸せだった。
きっといつかは京介さんのお嫁さんになるんだし、この楽な生活は専業主婦になる予行演習かも。なんて思いながらぐうたらすること三年。
結局あたしはお嫁さんどころか、恋人の座も秘書の座も、一気に失ってしまった。
『ヒメには来週から、管理課の事務に行ってもらう』
『管理課……?事務……?』
今まで何一つ仕事という仕事をしてこなかったあたしには、不安しかなくて……思わず涙を浮かべると、京介さんに冷たくこう言われた。
『馬鹿な女ほど、よく泣く』
その一言で、あたしはある意味吹っ切れた。この人にはもうあたしへの愛なんてない。
あたしは管理課で、一からやり直すんだ……そう、心に決めたのだ。