不器用上司のアメとムチ

京介さんがなんと言うのかが怖くてうつむいていると、彼が椅子から立ち上がる音がしてすぐ隣に気配が近づいてきた。

また、ひどいことを言われるかもしれない。

そう思って身を硬くしたときだった。


「……ちょうどよかった。僕も誰かに一発殴って欲しいと思っていたところだったんだ」


…………え?

理解できない発言に、思わず彼の顔を見上げた。


「思いきり頼むよ。」


見たことないような頼りない目をした京介さんが、あたしにそう言った。


「梅ちゃん、いいって言ってくれてるんだからやりなさい!」

「え、で、でも」

「ヒメ、遠慮は要らないよ」


……ええい、どうにでもなれ!


あたしは右手を大きく振りかぶり、京介さんの頬をはたいた。

パシン、と乾いた音が副社長室に響き渡る。

やがて前を向いた京介さんの綺麗な白い肌は、左頬だけが痛々しく赤かった。

< 200 / 249 >

この作品をシェア

pagetop