不器用上司のアメとムチ
京介さんがなんと言うのかが怖くてうつむいていると、彼が椅子から立ち上がる音がしてすぐ隣に気配が近づいてきた。
また、ひどいことを言われるかもしれない。
そう思って身を硬くしたときだった。
「……ちょうどよかった。僕も誰かに一発殴って欲しいと思っていたところだったんだ」
…………え?
理解できない発言に、思わず彼の顔を見上げた。
「思いきり頼むよ。」
見たことないような頼りない目をした京介さんが、あたしにそう言った。
「梅ちゃん、いいって言ってくれてるんだからやりなさい!」
「え、で、でも」
「ヒメ、遠慮は要らないよ」
……ええい、どうにでもなれ!
あたしは右手を大きく振りかぶり、京介さんの頬をはたいた。
パシン、と乾いた音が副社長室に響き渡る。
やがて前を向いた京介さんの綺麗な白い肌は、左頬だけが痛々しく赤かった。