不器用上司のアメとムチ
14.俺だけのお姫様
あたしは会社帰りに買ったお見舞いの梨を持って、久我さんの病室を目指していた。
今日は面白いことがあったんですよって、早く報告したいから自然に歩く速度が上がる。
その途中であの恋する乙女みたいな京介さんの表情が頭に浮かび、思い出し笑いが出そうになるのを堪えながら、目的の部屋の……少し手前で、あたしは足を止めた。
「――ねぇママ、ここにもう一人のパパが居るの?」
「そうよ、光と一緒に行くって言ったら喜んでたから、早く顔を見せてあげましょう?」
梨の入ったビニール袋が、あたしの手から離れて床に落ちた。
久我さんの病室の前に居た親子……その母親の顔には見覚えがある。
ずっと返しそびれている写真は、鞄の中の手帳に挟まったままだ。
「……あら?」
その人が、あたしの存在に気づいて会釈をした。
その視線に気づいた子どもの方もこちらを向き、あたしの足元を見ながら駆けてきた。
「おねぇさん、落ちてるよ?」
どうして……どうしてそんなに、似ているの?
小さな手で一生懸命大きな梨を支え、あたしに差し出すその男の子は……
彼の母親と、そして久我さんにそっくりだった。