不器用上司のアメとムチ

振り返った時、あたしの心臓は一瞬止まっていたと思う。

だって、だって、だって……


「く、久我さん……!?」


包帯は?眼帯は?

っていうかなんで歩いてるの?

奇跡的に一日で怪我が治りましただなんて、そんなことあるわけないよね?


「――ああ、もしかしてきみが猛の……」


久我さん(?)が、納得したように頷きながらあたしを見た。

すると男の子の母親が、こんなことを言った。


「そうみたい。ついでにすごい勘違いもしているみたいだから、自己紹介してあげて?」


ああ、それは大変だ。とのんびり言った彼は、久我さんと同じ顔で、久我さんが絶対にしないにっこり笑顔をあたしに向けた。


「俺は猛の双子の兄、久我聡って言います。こっちは妻の渚と息子の光。あなたには猛がいつもお世話になっているみたいで……」


ふ、双子……!?

そういえば、同じ顔だけど聡さんの方が体のセンが細いような……

それに、よく見たら久我さんにはない清潔感がたっぷりだ。


なぁんだ。

だからこの子も久我さんに似てるわけか……

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