不器用上司のアメとムチ
「……いまの、こくはく?」
不意に、あどけない声が静かな病室内に響いた。
その可愛らしいけど鋭い質問に、みんなの表情が和んだ。
「そうよ、二人は好き同士なの」
渚さんが説明すると、なぜか光くんは難しい顔をした。
「どうしたの?」
「……ぼくもこくはくする」
「誰に?」
「おひめさま」
小さな人差し指が、あたしに向かってぴんと伸びていた。
驚く大人たちに構わず、光くんは渚さんの膝から降りてあたしの側までやってきた。
「ぼくとけっこんしてください!!」
そして迷うことなく、ストレートな告白をあたしにぶつけてきた。
「え、えぇっと……」
小さい子との接し方に慣れていないあたしは、なんて返事をしたら彼を傷つけなくて済むのかわからない。
焦って視線を泳がせても、純粋な瞳はずっとあたしを射抜いている。
どうしよう〜〜!!
心の中で冷や汗をかいていると、掠れた低い声があたしに助け船を出した。
「――光、諦めろ。こいつは俺だけのお姫様なんだ」