不器用上司のアメとムチ
にぎやかな家族(主に光くん)が去ってしまうと、急に病室が広くなったような気がしてそわそわしてしまう。
あ、そうだ。梨、梨……
傍らに置いたままだった袋に手を伸ばし、一番大きな梨を取り出したときだった。
「――――俺はな、小梅。
渚を犯そうとしたことがあるんだ」
あたしの手の中から、コロン、と梨が滑り落ちた。
「え……?」
聞き間違い、かな……
「しかも、妊婦の渚を……だ」
ドクンドクンと、脈が速くなる。
久我さんの顔を見ることができない。
あたしは床に転がった梨を拾って、その皮のざらつきを、無意味に何度も撫でていた。
「光には偉そうなことを言ったが……お前がそんな俺を許せないなら、無理して恋人にならなくていい。軽蔑されて当然のことをしてるからな……」
自嘲するように言って、目を伏せた久我さん。
あたしは自分を落ち着かせるように一度大きく深呼吸した。
そうやっていつもいつも、先手を打ってあたしを遠ざけようとするのは……臆病の裏返しだよね?
もう、何度も同じパターンは効かないよ。
そんな簡単に、お姫様の座を降りてたまるもんですか……