不器用上司のアメとムチ
「……小梅」
愛しい声に名前を呼ばれ、同時に握っていた彼の手がするりとほどかれてあたしの頬に触れる。
「今日も……頼んでいいか?」
「……何をですか?」
久我さんは声には出さなかったけれど、親指であたしの唇をなぞって、答えの代わりにした。
そっか……まだ、体が思うように動かないもんね。
「いいですけど……一つ約束守ってくれますか?」
「約束?」
「……普通のキスにして下さい」
昨日みたいな深いキスをされたら、たまったもんじゃない。
今日は完全に二人きりだし、理性を保てる自信もない。
あたしはそう思って、彼に釘を刺すつもりで言ったのに……
「約束はその一つでいいんだな?じゃあ今日こそは触ってもいいと……」
「お触りも禁止ですっ!!」
ぺち、と軽く久我さんの頬を叩くと、その手首をつかまれてぐっと引き寄せられ、彼の胸に倒れ込む形になった。
「ご、ごめんなさい……!痛いですよね!!」
確か佐々木が久我さんのあばらボキボキって言ってたから、早くどかなきゃ……!
そう思うのに
「お前のくれる痛みなら喜んで受け入れる。つーか早く来い、小梅が足りない」
あたしの背中にがっちり腕を回して、久我さんはそう言った。