不器用上司のアメとムチ
あたしの膝の位置まで屈んだ久我さんが、ピンセットで摘まんだ脱脂綿を消毒液で濡らす。
「少し、我慢しろよ……」
「――――ん!」
派手に擦りむいた膝に、消毒液が容赦なくしみる。
ぎゅっと目を閉じながら久我さんの手当てが終わるのを待っていたら、不意に扉の開く音が聞こえて……
「……これ」
ぼそっと呟いた声がさっきの無愛想なイケメンさんだと気づいたあたしは、目を見開いて立ち上がる。
「さっきの……!」
「――――ん?」
久我さんも、彼の方に首を動かしてその姿を確認する。
「おー、柏木。管理になんか用か?」
久我さん、知り合いなんだ……
そして彼の名前は柏木さん、と。
「……いや、そこの怪我人が落としたものを届けに来ただけです」
彼の手には、あたしのバインダーとペン。そっか、わざわざあそこに戻って取ってきてくれたんだ。
「ああ、これ梅のか」
「梅……?」
「黙ってりゃ美人なうちのお荷物のことだ。手間かけさせたな、悪い」
「いえ。それじゃ俺はこれで」