不器用上司のアメとムチ

久我さんが退院したその日、「なにか美味しいものつくってあげます」と彼の家まで一緒に帰ったものの、キッチンなんて素通りしてベッドになだれこんだあたしたち。


むさぼるようにキスをして、そして服を脱がされている途中で、あたしは自分の身体の違和感に気付いたのだ。


『あ……始まっちゃったかも』

『始まった……?』

『ちょっと、ごめんなさい』


トイレに駆け込んで確認した下着には、予想通りの赤い染み。


『あのお……今日から一週間、できなくなっちゃいました』


あたしがそう告げたときに久我さんの口から漏れた深い深いため息は、彼の中のがっかり度を切なく物語っていた。


――その日から一週間と数日。

あたしの体は元通りになり、やっと今日から思う存分抱き合えますよと、昨夜のうちに久我さんにメールで伝えてあったんだけど……

今日に限って、課の飲み会が計画されていたのを今朝佐々木の口から聞かされて、だから久我さんはイライラしているのだ。

しかも、その会は久我さんのための快気祝い。主役が欠席するわけにはいかない。

< 220 / 249 >

この作品をシェア

pagetop