不器用上司のアメとムチ

「……森永、お前それ、ウーロン茶か?」


不意に久我さんが、そう言ってテーブルの上のグラスを指さす。


「あ、はい……」

「最初くらいは飲んだらどうだ?別に全部飲まなくてもいいから――」

「ええと、そうしたいんですけど、でも……」


森永さんがそう言って困ったような顔をする。


「……全く、お前は本当にデリカシーがないな、久我」

「……あ?」


話を遮ったのは、京介さんだ。既にお酒が入った彼は、綺麗な白い頬をほんのり桜色に染めている。


「女性がアルコールを避けるのは、それが身体的な理由によるときだってある。それにさっきそこの……えーと、名前なんだっけ?
まあいいや。汚い茶髪の彼が言いかけたのは、彼女になにか祝い事があるということなんだろう?つまり……」


え……?森永さん、もしかして……

みんなの視線が一気に森永さんの方へ向けられると、彼女は観念したように苦笑して、小さな声で言った。


「まだ、初期の初期だから黙っていようと思ったんだけどね……できてたの、子ども」


本当に……?

あ、どうしよう……涙が出ちゃう……

だって、森永さん、ずっとずっと苦しんで……そのせいで命まで捨てようとしていて。

あのとき、森永さんが車にひかれちゃってたら……その子には出会えなかったってことだよね……?


「お……めでと…ございます……っ!!」


ずず、と鼻水を啜りながら言うと、森永さんはにっこり微笑んでくれた。


「ありがとう……あの時姫原さんが助けてくれたおかげよ」


そう言った森永さんからは、前とは違う強さみたいなものがにじみ出ている気がした。

お母さんになるんだもんね……

ああ、でも本当に……私まで嬉しいよ……

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