不器用上司のアメとムチ
「ちょ、副社長……冗談キツイですって」
引きつった笑み軽く言う佐々木に対し、京介さんは真面目な顔で答える。
「冗談じゃないよ茶髪くん」
「え」
「僕は好きになった女性を振り向かせたいあまり、さまざまな貢ぎものを彼女に贈ったんだ。そしてその費用を……」
貢ぎもの……京介さんのことだから、ものすごく高価なものなんだろう。
でも、だからって会社のお金を使わなくたって……
「お前ならそんなの自分の金でなんとかなるだろう。なんでわざわざそんな危ない真似……」
久我さんもあたしと同じ疑問を口にした。すると京介さんは、切なげにまつ毛を伏せて言う。
「僕のお金は……これからの二人のために取っておきたかったんだ。だから、彼女を振り向かせるための資金は他から欲しくて……つい」
悲劇の主人公のように、両手で頭を抱える京介さん。
それが似合いすぎて、思わず同情しそうになるけど……よく考えたら、ものすごーくおかしな発言だったよね、今の。
だってまだ恋人にもなってない女性との未来のために自分のお金を使いたくないから、“ついうっかり”会社のお金に手を出したってこと……?
京介さんに対してこう思うのは二度目だけど、さすがに今回は声に出して言ってもいい?
「……京介さんって、ばか?」
「ううっ……まさかヒメに“ばか”と言われる日が来るなんて屈辱だ……!」
ああ……まあ、京介さんにしてみたらそうでしょうね。
散々あたしのことばかにしてきたから、そりゃ悔しいでしょうよ。