不器用上司のアメとムチ
「で、額はいくらなんだ?」
久我さんの問いに、京介さんはいたずらがばれた子供のように拗ねた顔をして答える。
「……一千万」
「いっせん……一体その女に何買ってやったんだよ。つーか返す当てはあんのか」
「ああ……洋品店の新しい店舗とか、毛皮のコートとか色々ね……ま、受け取ってはもらえなかったが。
それから返済は心配ない……父の監視のもとで、僕の個人的な口座からちゃんと返した。
ただ……その使い道を聞いた父が激怒していて、“お前のような馬鹿息子が副社長では会社がつぶれる。反省と、それから勉強し直す意味でも、お前はしばらく管理課へ行くんだ”――そう、指示されてしまった」
ああ、社長も大変だ……
こんな人が副社長で、しかも自分の息子でもあるわけだから、色々頭が痛そう……
「なるほどねー。おとーさんの気持ち察するわ」
「そうね……うちの課でボールペンの芯が一本いくらするとか、そういうことを身をもって知ってもらった方がいいのかも。この世間知らずの馬鹿王子には」
「わたしゃこないだまでこの人のファンだった自分が恥ずかしいよ……」
管理課の面々が次々吐き出す毒に、京介さんは焦ったような表情をしていた。
もしかして、こんな風に自分を否定された経験、ないのかも……
「ちょっと君たち、冷たすぎやしないか?仮にも僕は今まで副社長だったわけで……」
案の定、京介さんはそう言って優しい言葉を引き出そうとしていた。
そういうの、この課では通用しないよって、あたしが教えてあげようかな?
「京介さん」
「おお、ヒメ、僕を弁護してくれるんだね。ここはガツンとひとつ頼むよ」
……ごめんなさい、京介さん。
あたしはもう、何もできない“ヒメ”からは卒業したんです。
「……諦めてこの人たちの言うことを聞いた方がいいと思いますよ。管理課は、あたしたちみたいな馬鹿に厳しいんです」