不器用上司のアメとムチ

がっくりと肩を落とした京介さんはその後、やけ酒モードに突入し、泣きながら佐々木に恋の相談をしていた。

見た目がチャラい割にしっかりした恋愛観を持つ佐々木の話に、京介さんがいちいち大げさに頷いているのがおかしかった。


小出さんは実は三児の母らしく、森永さんに出産の心得などを説明していて、あたしも将来のために……と、グラスを傾けながら話を聞いていたのだけど……

その途中で左肩に重いものがのしかかってきて、“しまった”と思った。

あたし、久我さんがどれくらいお酒飲んでるのか監視するの、すっかり忘れてた……!!


「く、久我さん……もしかして飲みすぎました?」


肩にもたれてくる頭を押し上げてまっすぐ座らせながら、あたしは彼に訊く。


「……飲みすぎてなんかないさ。むしろ、物足りないくらいだよ」


……ろれつは回ってるみたいだけど、なんか、喋り方おかしくない?


「あのう、お水頼みましょうか。多分ですけど、久我さん酔ってらっしゃるんで……」

「水なんて要らないよ。それより僕はヒメが欲しくてどうにかなりそうだ」


ヒメ……?僕……?
ま、まさか……


「あの……いつもみたいに“小梅”とか“お前”とか言わないんですか?」

「小梅はともかく、女性に“お前”だなんて野蛮な物の言い方、僕がするわけないだろう?」


ぎゃー!久我さんが京介さん化してる!!
似合わない!似合わな過ぎる~~!!


「佐々木、水!水頼んで!」

「え……どしたの?」

「久我さんが気持ち悪いことになってるの~~」


店のトイレで犯す、なんて言っていたオオカミさんはどこへやら。

飲み会の間中ずっと久我さんは、ヒメ、ヒメとあたしを呼んで、みんなに爆笑されていた。

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