不器用上司のアメとムチ

日付が変わった頃に、タクシーで久我さんのアパートに着いたあたしたち。


「久我さーん、着きましたよ?鍵出してください」

「ん……ああ」



京介さん化してた状態はさすがに治ってくれた久我さんだけど、まだ足元はふらつくし眠いみたいで、あたしは彼に肩を貸しながらなんとかベッドまで辿り着いた。


「よいしょ……」


ぼふんとベッドに下ろすと、すぐにすうすう寝息を立て始めた久我さん。

あーあ、また抱き合うチャンス逃しちゃったよ……

でも、かわいい寝顔。

つん、とそのほっぺたをつついてから、あたしは立ち上がった。


汗とかお酒の匂いとか、……それから久我さんに汚されたとことかを綺麗にしたくて、シャワーを借りようと思ったのだ。


「……ついでに服も、貸してくださいね……」


一日身に着けてたブラウスと下着は洗ってしまいたいから、Tシャツでも借りたいな、と寝室のクローゼットを開く。

そこには、ハンガーにかかった久我さんのスーツやシャツがずらっと並んでた。


ちょっとした好奇心から、あたしはその中の一つに鼻をくっつけて、すうっと息を吸い込んだ。

当たり前だけど……久我さんの匂いがする。


「……いいかなぁ……いいよね?」


あたしはばさばさと服を脱ぎ出し、ハンガーから外した白いワイシャツを素肌に身に着けた。

そしてぎゅっと自分自身を抱き締め、また胸いっぱいに久我さんのにおいを取り込む。

あたし、ストーカーみたい……
でも、こうすると久我さんに抱き締められてる気分……


酔ってるせいもあるのかもしれないけど、想いを伝えあってから一度も抱かれてないのが寂しくて、あたしはしばらく久我さんの香りに酔いしれながら、膝を抱えて座っていた。

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